一般社団法人 日本肝臓学会

1.肝臓リハビリテーションとは?誰を対象とすべきか?

肝臓リハビリテーションとは?

肝臓リハビリテーション(以下肝臓リハ)は「肝臓疾患に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、栄養療法、薬物療法、教育、精神・心理的サポート等を行う、長期にわたる包括的なプログラム」と定義される1。その目的は、脂肪性肝疾患や肝硬変、肝癌の合併症を予防し症状を軽減することにより、患者の予後と生活の質(QOL)を改善することである。肝臓リハの具体的な内容は運動療法を主体として、生活指導や栄養指導、薬物療法も含めた慢性肝疾患に対する包括的治療として位置づけられる。近年、肝硬変や脂肪性肝疾患の基本的治療として、運動療法がこれらの病態を改善することが明らかになっている。

肝疾患とサルコペニア

肝硬変患者は、「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」であるサルコペニアを高頻度に合併する。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)もサルコペニアと関係している。

筋肉は「第二の肝臓」と呼ばれ、特に蛋白質の代謝に関わっている。人間は一定の年齢に達すると、加齢に伴い身体機能が低下する。老化に伴い骨格筋における蛋白質の合成と分解のバランスが崩れると、筋肉量の減少や筋力の低下、転倒、歩行障害などが出現し、高齢者の日常生活に負の影響をもたらす。本邦では肝硬変患者の高齢化が進んでおり、年齢(一次性)と疾患(二次性)によるサルコペニアの増加は大きな健康問題になっている。また肥満やメタボリック症候群と関係するNAFLD/NASH患者も増えているが、これらの患者のサルコペニア対策も重要である(表)。

表.サルコペニアの分類(日本肝臓学会『肝疾患におけるサルコペニア判定基準』を改変)
原疾患一覧

サルコペニアに対する肝臓リハ

肝硬変は進行性疾患であり、合併症の予防や治療を行わないと生命予後は不良である。肝硬変にともなうサルコペニアは生存率の低下や肝臓癌の手術成績の不良に関係しており、早期から適切な肝臓リハ(栄養・運動療法)を行うことが、患者の予後を改善する上で極めて重要である。肝硬変に合併するサルコペニアの有用な治療として肝臓リハが提案されている(肝硬変診療ガイドライン2020 改訂第3版)2,3。また、NAFLD/NASHに対しても同様に肝臓リハを行うことが推奨されている(NAFLD/NASH診療ガイドライン2020 改訂第2版)4,5

肝硬変患者の運動療法において重要なことは、十分な病態の評価と安全性への配慮である。過度の運動療法は黄疸の悪化や静脈瘤破裂などのリスクにつながるため、肝予備能に応じた肝臓リハを提案する必要がある。特に高齢の肝硬変患者では、運動介入に伴う転倒や骨折にも注意が必要である。肝不全患者を対象とした海外の無作為化比較試験において、8週間から14週間の運動療法によりサルコペニアは改善することが示されている6-9。ただし、肝予備能の低いChild-Pugh Cの患者は対象に含まれておらず、現時点においてChild-Pugh Cの患者に対する運動療法の有用性と安全性は不明確である。

海外においても、肝硬変のサルコペニアに対する運動療法の関心が高まっている。ヨーロッパ肝臓学会10とアメリカ肝臓学会11は、肝硬変のサルコペニアに対する運動療法の総説を公開している。本邦においては、厚生労働科学研究補助金肝炎等克服緊急対策研究事業の研究結果(2013年、研究課題:ウイルス性肝疾患患者の食事・運動療法とアウトカム評価に関する研究)にて「Child-Pugh Aの患者における安全な運動療法は、1回1エクササイズ(1 METs)、1日1回、週4日」であることが提言されている。これらの報告を元に、本邦の患者にとってアクセスしやすい肝臓リハのガイドラインやツールを作製する必要がある。

日本心臓リハビリテーション学会や日本腎臓リハビリテーション学会のガイドラインでは、実際の運動療法を有酸素運動、レジスタンストレーニング、柔軟性等に区分し、その頻度、強度、時間、具体的な運動種類に関して記載されている。肝臓は骨格筋のみならず、腎臓や心臓とも臓器相関を形成しているが、心臓リハビリテーションや腎臓リハビリテーションもサルコペニアやフレイル対策に重点をおいている。また、NASHの死因の第一位は心血管疾患であることから、肥満や糖尿病などの生活習慣病や心血管疾患の改善・予防も、これらのリハビリテーションを行う重要な目的である。肝臓リハもサルコペニアから生活習慣病まで幅広く対応することで、患者のQOLや予後の改善に寄与することを目的とする。一方、肝臓は癌を併発する臓器であり、特に肝硬変やNASHでは肝発癌のリスクが高まるため、肝臓リハは癌リハビリテーションと連携していくことも重要である。

現在、本邦における肝硬変の患者数は30万人以上と推定されており、毎年約3万人の患者が肝硬変や肝癌で亡くなっている。また本邦におけるNAFLDの有病率は9〜30%、NASHの罹患率は2〜5%と推定されている。このように「国民病」である肝臓病に対して、適切な肝臓リハを確立し実践することで合併症の進展を予防できれば、社会の活性化や生産性の向上、医療費の削減にもつながる可能性がある。肝臓リハは、患者個人のQOLや生命予後を改善するとともに、活力のある健康長寿社会を実現する質の高い医療であることをご理解いただきたい。

肝臓リハを具体的にはどのように行えばよいのか、また国内の肝疾患患者を対象としてどのように展開したらよいかについて、2.以降の各論で述べる。

肝臓リハの対象患者は?

肝臓リハの対象となる患者、および注意点を下の表にまとめた。

脂肪性肝疾患
  • NAFLDとNASH
  • 運動療法と栄養療法(栄養指導)とをセットで行う
肝硬変
  • 肝予備能がChild-Pugh AまたはBの症例
  • 有症状のChild-Pugh Cの症例に関しても一部は運動療法の対象とする(EASLの指針に基づく)
  • ウイルス性、アルコール性、NASHなど成因は問わない
  • 運動療法と栄養療法(栄養指導)とをセットで行う
  • 外来通院を基本とするが入院中に導入する(入院中も継続する場合もある)
肝癌
  • がんリハビリテーションと連携

文献

  1. 上月 正. 【見えない障害、肝臓のリハビリテーション】肝臓機能障害患者における障害とリハビリテーションの考え方. Journal of Clinical Rehabilitation 2011;20:312-21.
  2. Yoshiji H, Nagoshi S, Akahane T, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for Liver Cirrhosis 2020. J Gastroenterol 2021;56:593-619.
  3. Yoshiji H, Nagoshi S, Akahane T, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for liver cirrhosis 2020. Hepatol Res 2021;51:725-49.
  4. Tokushige K, Ikejima K, Ono M, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for nonalcoholic fatty liver disease/nonalcoholic steatohepatitis 2020. J Gastroenterol 2021;56:951-63.
  5. Tokushige K, Ikejima K, Ono M, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for nonalcoholic fatty liver disease/nonalcoholic steatohepatitis 2020. Hepatol Res 2021;51:1013-25.
  6. Roman E, Garcia-Galceran C, Torrades T, et al. Effects of an Exercise Programme on Functional Capacity, Body Composition and Risk of Falls in Patients with Cirrhosis: A Randomized Clinical Trial. PLoS One 2016;11:e0151652.
  7. Zenith L, Meena N, Ramadi A, et al. Eight weeks of exercise training increases aerobic capacity and muscle mass and reduces fatigue in patients with cirrhosis. Clin Gastroenterol Hepatol 2014;12:1920-6 e2.
  8. Macias-Rodriguez RU, Ilarraza-Lomeli H, Ruiz-Margain A, et al. Changes in Hepatic Venous Pressure Gradient Induced by Physical Exercise in Cirrhosis: Results of a Pilot Randomized Open Clinical Trial. Clin Transl Gastroenterol 2016;7:e180.
  9. Kruger C, McNeely ML, Bailey RJ, et al. Home Exercise Training Improves Exercise Capacity in Cirrhosis Patients: Role of Exercise Adherence. Sci Rep 2018;8:99.
  10. Tandon P, Ismond KP, Riess K, et al. Exercise in cirrhosis: Translating evidence and experience to practice. J Hepatol 2018;69:1164-77.
  11. Carey EJ, Lai JC, Sonnenday C, et al. A North American Expert Opinion Statement on Sarcopenia in Liver Transplantation. Hepatology 2019;70:1816-29.