一般社団法人 日本肝臓学会

6.肝癌患者に対する肝臓リハは?

がんのリハビリテーション

わが国では国民の2人に1人が生涯のうちに癌に罹患し、3人に1人は癌で亡くなっている。しかしその一方で、癌の早期発見や治療法の進歩により不治の病と思われていた癌患者も生存率が向上し、癌との共存を目指す時代となりつつある。2006年に「がん対策基本法」が制定され、「がんによる死亡者の減少」だけでなく「すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上」を推進すべく、様々な施策が講じられた。その中の一つであるリハビリテーションに関しては、2010年「がん患者リハビリテーション料」が保険収載されて疾患横断的な算定が可能となったため、複数の障害を有する進行癌患者に対しても、個別の患者の状態に応じた適切なリハビリテーションを処方することが可能となった。学術的にも2013年には「がんのリハビリテーションガイドライン」が、2019年には改訂第二版1が出版され、癌患者に対するリハビリテーションの理論的基盤も整いつつある。

肝癌のリハビリテーション

肝癌の罹患者は2000年ころをピークに減少傾向にあるとはいえ、2018年の肝癌罹患者数は38,312人(男性26,163人、女性12,148人)であり、悪性新生物の中では第7位(男性5位、女性10位)であった。また2019年の肝癌による死亡者数は25,264人(男性16,750人、女性8,514人)と悪性新生物の中では第5位(男性5位、女性7位)であり、依然として少なからぬ患者が肝癌で苦しんでいる。
肝癌の約60%は背景に肝硬変を有している。肝硬変という低栄養状態を発症の基盤とした肝癌患者の場合のサルコペニア率は40~50%と、一次性サルコペニアの有病率と比べ高く2,3、システマティックレビューでも肝細胞癌における筋肉量と全生存率、再発が関連すると報告されており4、サルコペニアの改善に伴い予後が延長することが期待されている。

肝細胞癌の治療は、肝予備能と腫瘍条件によって手術、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、化学療法が選択されるが、これらの治療を受ける肝癌患者に対するリハビリテーションによる身体機能や筋肉量の改善の有用性が明らかになりつつある。例えば、TACEのため入院した患者を対象とした後方視的検討により、がんリハビリテーションを行った患者群がコントロール群に比べ予後がよいことが報告されている5。また、化学療法中の患者にも適切なリハビリテーションを行うことにより身体活動性、運動耐容能、筋力、身体機能、倦怠感、精神機能・心理面、有害事象、末梢神経障害による機能障害、日常生活動作、QOLが改善されることが報告されており、化学療法中の患者に対するリハビリテーション治療(運動療法)は実施を強く推奨されている(がんのリハビリテーション診療ガイドライン 第2版)1

さらに、近年では術後のみならず術前から実施する運動療法・呼吸リハビリテーション(プレリハビリテーション)の重要性が報告されている。手術予定のある肝細胞癌患者のRCTとして食事療法群と食事+運動療法群に分けて検討したところ、運動療法は肝機能障害に伴うインスリン抵抗性を改善し、術後運動の早期再開が可能になると報告されている6

以上のように治療中の肝癌患者へのリハビリテーションが推奨される一方で、末期進行肝癌に対するリハビリテーション治療は、現時点では十分なエビデンスが確立しているわけではない。根治治療対象外の進行癌患者に対する運動療法や緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対する病状の進行や苦痛症状に合わせた包括的リハビリテーション治療はいずれも弱い推奨にとどまっている(がんのリハビリテーション診療ガイドライン 第2版)1。一方で予後改善には結びつかないものの、倦怠感などのQOLが包括的リハビリテーションにて改善するとの報告もあり、その是非については今後検証が必要である。

肝癌患者と言っても、早期癌か進行癌かによっても病態や全身状態には大きな差異があり、それぞれの治療により予想される合併症や薬剤の副作用などは異なるため、個々の肝癌患者の病態に合った適切なプログラムが必要となる。さらに運動療法のみならず、栄養療法・薬物療法など理学療法士・管理栄養士・薬剤師などによる多職種によるサポートが肝要であり、今後のエビデンスの集積が期待される。

文献

  1. 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン改訂委員会 編. がんのリハビリテーション診療ガイドライン 第2版. 金原出版, 2019.
  2. Harimoto N, Yoshizumi T, Shimokawa M, et al. Sarcopenia is a poor prognostic factor following hepatic resection in patients aged 70 years and older with hepatocellular carcinoma. Hepatol Res 2016;46:1247-55.
  3. Higashi T, Hayashi H, Taki K, et al. Sarcopenia, but not visceral fat amount, is a risk factor of postoperative complications after major hepatectomy. Int J Clin Oncol 2016;21:310-9.
  4. Chang KV, Chen JD, Wu WT, Huang KC, Hsu CT, Han DS. Association between Loss of Skeletal Muscle Mass and Mortality and Tumor Recurrence in Hepatocellular Carcinoma: A Systematic Review and Meta-Analysis. Liver Cancer 2018;7:90-103.
  5. Hashida R, Kawaguchi T, Koya S, et al. Impact of cancer rehabilitation on the prognosis of patients with hepatocellular carcinoma. Oncol Lett 2020;19:2355-67.
  6. Kaibori M, Ishizaki M, Matsui K, et al. Perioperative exercise for chronic liver injury patients with hepatocellular carcinoma undergoing hepatectomy. Am J Surg 2013;206:202-9.