一般社団法人 日本肝臓学会

5.合併症を有する肝硬変患者に対する運動療法は?

静脈瘤管理

肝臓リハ開始前に超音波エラストグラフィなどによる肝硬度測定や血小板数測定、さらに上部消化管内視鏡検査を施行し、静脈瘤の適切な管理が行われていることを確認した上で肝臓リハを開始する。Child-Pugh score平均6.9点の肝硬変患者では目標の50%程度という中等度運動でも門脈圧を上昇させ、食道静脈瘤を持つ患者では静脈瘤出血の可能性が報告されているので、患者に対し運動中にこのような危険性があることを事前に説明することが大切である1。βブロッカーは酸素取り込みに影響を与えないとの報告もある2が、肝障害悪化や脳症悪化に働く可能性も指摘されているので投与患者では注意を要する3

Virtual Baveno VII Consensus Workshop4では、肝硬度が20kPa以上、あるいは血小板数が150,000/μL以下で、非選択性βブロッカーを服用していない代償性肝硬変患者では、静脈瘤スクリーニングのため上部消化管内視鏡検査を施行することが推奨されている。一方、肝硬度が20kPa未満、かつ血小板数が150,000/μL超の症例では治療を要する静脈瘤を有する可能性は低く、内視鏡スクリーニング検査を行わないことも選択肢である。この場合には肝硬度測定と血小板数測定を年1回施行し、肝硬度20kPa以上への増加または血小板数150,000/μL以下への低下がみられた場合には上部消化管内視鏡検査を行う4。この「肝硬度が20kPa未満、かつ血小板数が150,000/μL超」という基準は、C型肝炎ウイルスが排除されたSVR後のC型肝炎患者やB型肝炎ウイルスが持続陰性化しているB型肝炎患者においては、高リスクの静脈瘤が存在しないと判断する上で有用であると考えられる4

脳症管理

不顕性脳症でも悪化する可能性があるので、不顕性脳症および顕性脳症をリハビリ運動開始前に十分コントロールする必要がある5。血中アンモニアを下げる治療は、脳症を防止するだけでなく、サルコペニアを減少させる可能性がある6

脱水予防

利尿剤使用中の肝硬変患者では、体液量減少や低血圧が運動により生じることに注意する5。特に高齢者では注意する7。運動後には自宅血圧測定を推奨する。肝疾患患者では飲酒は原則禁止であるが、飲酒そのものが脱水を惹起する可能性があるため、運動前後における軽度の飲酒も避けるべきである8

文献

  1. García-Pagàn JC, Santos C, Barberá JA, et al. Physical exercise increases portal pressure in patients with cirrhosis and portal hypertension. Gastroenterology 1996;111:1300-6.
  2. Wallen MP, Hall A, Dias KA, et al. Impact of beta-blockers on cardiopulmonary exercise testing in patients with advanced liver disease. Aliment Pharmacol Ther 2017;46:741-7.
  3. Calès P, Pierre-Nicolas M, Guell A, et al. Propranolol does not alter cerebral blood flow and functions in cirrhotic patients without previous hepatic encephalopathy. Hepatology 1989;9:439-42.
  4. de Franchis R, Bosch J, Garcia-Tsao G, Reiberger T, Ripoll C. Baveno VII - Renewing consensus in portal hypertension. J Hepatol 2022;76:959-74.
  5. Tandon P, Ismond KP, Riess K, et al. Exercise in cirrhosis: Translating evidence and experience to practice. J Hepatol 2018;69:1164-77.
  6. Carey EJ, Lai JC, Sonnenday C, et al. A North American Expert Opinion Statement on Sarcopenia in Liver Transplantation. Hepatology 2019;70:1816-29.
  7. Young A. Ageing and physiological functions. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 1997;352:1837-43.
  8. Barnes MJ. Alcohol: impact on sports performance and recovery in male athletes. Sports Med 2014;44:909-19.