一般社団法人 日本肝臓学会

7.肝臓リハの経済的効果は?

内部障害リハに対する診療報酬

内部機能障害は、心臓機能障害、腎臓機能障害、呼吸機能障害、膀胱・直腸機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害、肝臓機能障害に分類される身体障害であり、内部障害リハビリテーション(リハ)は生活の質の向上、生命予後の改善および医療費抑制効果が期待できる1。内部障害リハの診療報酬算定として、平成18年に心大血管疾患リハビリテーション料と呼吸器リハビリテーション料、平成22年にがん患者リハビリテーション料が新設された。慢性腎臓病患者では、運動療法を行うことで腎機能(estimated glomerular filtration rate: eGFR)が改善すること2,3、透析などの腎代替療法移行率や総死亡率が低下することが明らかになっている4。平成26年度の診療報酬改定で、慢性腎臓病ステージ4以降の糖尿病性腎症患者に対して、腎不全患者指導加算が設定され、令和4年度には、透析患者に対する透析時運動指導等加算の算定が可能になった。しかし肝疾患は、肝不全が進行し、患者の日常生活動作が低下した場合に廃用症候群リハ料の対象となるが、医療保険における疾患別リハ料の対象となっていない。

肝臓リハの医療費削減効果

脂肪性肝疾患5、C型肝硬変6、サルコペニア合併肝硬変の患者7を対象として、運動療法の効果別に医療費抑制効果を数理疫学的モデル(マルコフモデル)により検討した(図1)。

図1:運動療法を組み込んだサルコペニア合併肝硬変のマルコフモデル

肝疾患の病態別の1年間の医療費は厚生労働科学研究費補助金で取得されたC型慢性肝疾患のデータ8やレセプト情報・特定健診等情報データベースから算出した。各肝疾患において、運動療法を行なった場合と行わない場合で、肝病態推移を予測して、医療費削減額を試算した(表1)。

運動療法の効果によっても異なるが、脂肪性肝疾患では、100人あたり5年間の医療費削減額は5.3万円から25.2万円となる。C型肝硬変では、直接作用型抗ウイルス剤(Direct Acting Antivirals: DAA)治療を行う場合、運動療法による医療費抑制効果はほとんど認められないものの、DAA治療を行わない場合は脂肪性肝疾患と比べて、医療費抑制効果は顕著に大きくなり、削減額は368万から1962万となる。さらに、サルコペニア合併肝硬変患者では、医療費削減額はサルコペニアがない患者に比べて約4倍高くなる。

従って肝リハの医療費抑制効果は、運動療法の効果が高いほど大きくなり、また、肝疾患の病態進展に伴って高くなることが明らかになった。

表1 各肝疾患における100人あたり5年間の医療費削減額と削減率
運動療法
の効果
(%)
脂肪性肝疾患 C型肝硬変(DAAあり) C型肝硬変(DAAなし) サルコペニア合併肝硬変
医療費削減額
(万円)
削減率
(%)
医療費削減額
(万円)
削減率
(%)
医療費削減額
(万円)
削減率
(%)
医療費削減額
(万円)
削減率
(%)
0 0 0 0 0 0 0 0 0
10 5.3 9.2 3 0.02 368 1.2 1414 3.7
20 10.4 18.1 7 0.04 747 2.4 2952 7.8
30 15.5 27 11 0.06 1140 3.7 4626 12.2
40 20.4 35.5 15 0.08 1544 5 6446 17
50 25.2 43.8 19 0.1 1962 6.4 8424 22.3

DAA:直接作用型抗ウイルス剤

文献

  1. Kohzuki M. Late Phase II Cardiac Rehabilitation, Which Is Adding Life to Years and Years to Life, Is Still Underused in Japan. Circ J 2016;80:1697-9.
  2. Baria F, Kamimura MA, Aoike DT, et al. Randomized controlled trial to evaluate the impact of aerobic exercise on visceral fat in overweight chronic kidney disease patients. Nephrol Dial Transplant 2014;29:857-64.
  3. Greenwood SA, Koufaki P, Mercer TH, et al. Effect of exercise training on estimated GFR, vascular health, and cardiorespiratory fitness in patients with CKD: a pilot randomized controlled trial. Am J Kidney Dis 2015;65:425-34.
  4. Chen IR, Wang SM, Liang CC, et al. Association of walking with survival and RRT among patients with CKD stages 3-5. Clin J Am Soc Nephrol 2014;9:1183-9.
  5. Tampi RP, Wong VW, Wong GL, et al. Modelling the economic and clinical burden of non-alcoholic steatohepatitis in East Asia: Data from Hong Kong. Hepatol Res 2020;50:1024-31.
  6. Fukuda H, Yano Y, Sato D, et al. Healthcare Expenditures for the Treatment of Patients Infected with Hepatitis C Virus in Japan. Pharmacoeconomics 2020;38:297-306.
  7. Kikuchi N, Uojima H, Hidaka H, et al. Prospective study for an independent predictor of prognosis in liver cirrhosis based on the new sarcopenia criteria produced by the Japan Society of Hepatology. Hepatol Res 2021;51:968-78.
  8. 研究代表者 平尾智広;平成26年3月 厚労科研「ウイルス性肝疾患に係る各種対策の医療経済評価に関する研究」平成23-25年度 総合研究報告書:厚生労働科学研究費補助金難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業(肝炎関係研究分野)