一般社団法人 日本肝臓学会

3.脂肪性肝疾患患者に対する肝臓リハは?

脂肪肝への運動療法の意義

NAFLD/NASHを含む脂肪肝は肥満(Body mass index [BMI] 25.0kg/m2以上)を伴うことが多く、一部の症例は肝硬変まで進行する(NAFLD/NASHガイドライン2020)1。臨床現場では、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病や心血管疾患のリスクが高く、病態的にも密接に関連していることから、肝病変だけでなくメタボリックシンドロームの改善や予防のためにも運動療法が推奨される。運動療法によるNAFLD/NASHが改善する理由としては、筋肉運動によって脂肪組織から遊離脂肪酸が放出され、筋細胞でエネルギーとして燃焼されることによって、インスリン抵抗性の改善をもたらし、肝臓での脂質合成が低下することで肝脂肪量が減少するためと考えられている2。その他の機序として、内臓脂肪量が減少することで肝臓への脂質の供給が低下すること、またVLDL(very low-density lipoprotein;超低密度リポタンパク質)のクリアランスが増加して肝臓での脂肪含有量が低下することなどが挙げられる。

脂肪肝に推奨される治療

脂肪肝に対する薬物療法は存在せず、現時点で推奨された治療は食事運動療法による体重減少のみである1

体重減少の目標

肝臓リハ(食事と運動療法)による体重減少により、NAFLD/NASHの肝機能及び組織像を改善することができる1。具体的には7%以上の体重減少によってNASHの脂肪化や炎症細胞浸潤、風船様変性を軽減し、NAFLD activity score(NAS)の改善が認められるとされ、更に10%以上の減量で肝線維化も改善することが示されている3

運動療法の実際

運動療法単独でもNAFLD患者の肝機能と肝脂肪化は改善するため、運動療法を行うことが推奨されている1。30~60分、週3~4回の有酸素運動を4~12週間継続することで、体重減少を伴わなくても肝脂肪化が改善することが示されている4。運動強度および運動時間に関しては、週に250分以上中等度から強度の有酸素運動を12週間行った群では、効果的に肝脂肪化が改善するなど、中等度以上の運動強度の有用性が示されている5。運動の種類に関しては、有酸素運動とレジスタンス運動の比較により、レジスタンス運動はエネルギー消費量が有酸素運動よりも低いにもかかわらず肝脂肪化を改善することが報告されている6。レジスタンス運動は筋力や筋肉量を効果的に改善することができる。レジスタンス運動のみでの肝脂肪の減少はわずかだが、全身の脂肪燃焼能力を高め、レジスタンス運動後最大48時間エネルギー消費量が増加することがわかっている。また、心肺系への負担が少ないため、心肺機能低下や整形外科的疾患を有するケース、肥満のため有酸素運動が困難なケースにおける運動療法として代替できる可能性がある。

Lean・サルコペニア症例への運動療法

本邦にはBMI 23.0kg/m2未満のやせ型(Lean)の症例や低筋肉量(サルコペニア)のNAFLD症例も多数存在する。サルコペニア肥満は、サルコペニアと高体脂肪(肥満)の両方を特徴とした状態である。肥満は高齢者に虚弱を引き起こし、体重減少は加齢に伴う筋肉と骨量の減少を加速し、その結果生じるサルコペニアと骨量減少を加速する可能性があり、Lean NAFLDになる可能性がある。サルコペニア肥満はサルコペニアまたは肥満のみの人々よりも代謝性疾患および身体障害のリスクが高いとされる7。肝臓リハは、肥満とサルコペニアの両方に効果的であるとされている。有酸素運動は体重と体脂肪量を減少させ、レジスタンス運動は体脂肪量を低下させ、握力を改善する8。有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせがもっとも効果的であり、体脂肪量が低下し、歩行速度も向上させる7,9。運動に加え、高タンパク質の食事摂取にて総脂肪量を減らすことができるが、骨格筋量、握力、歩行速度の増加につながるかに関しては意見が分かれている7,8,10

文献

  1. 編集 日本消化器病学会・日本肝臓学会. NAFLD/NASHガイドライン2020. 改訂第2版.南江堂. 東京. 2020.
  2. Schenk S, Horowitz JF. Acute exercise increases triglyceride synthesis in skeletal muscle and prevents fatty acid-induced insulin resistance. J Clin Invest 2007;117:1690-98.
  3. Vilar-Gomez E, Martinez-Perez Y, Calzadilla-Bertot L, et al. Weight loss through lifestyle modification significantly reduces features of nonalcoholic steatohepatitis. Gastroenterology 2015;149:367-78.
  4. Johnson NA, Sachinwalla T, Walton DW, et al. Aerobic exercise training reduces hepatic and visceral lipids in obese individuals without weight loss. Hepatology 2009;50:1105-12.
  5. Katsagoni CN, Georgoulis M, Papatheodoridis GV, et al. Effects of lifestyle interventions on clinical characteristics of patients with non-alcoholic fatty liver disease: A meta-analysis. Metabolism 2017;68:119-32.
  6. Hashida R, Kawaguchi T, Bekki M, et al. Aerobic vs. resistance exercise in non-alcoholic fatty liver disease: A systematic review. J Hepatol 2017;66:142-52.
  7. Hsu KJ, Liao CD, Tsai MW, et al. Effects of exercise and nutritional intervention on body composition, metabolic health, and physical performance in adults with sarcopenic obesity: a meta-analysis. Nutrients 2019;11:2163.
  8. Hita-Contreras F, Bueno-Notivol J, Martínez-Amat A, et al. Effect of exercise alone or combined with dietary supplements on anthropometric and physical performance measures in community-dwelling elderly people with sarcopenic obesity: a meta-analysis of randomized controlled trials. Maturitas 2018;116:24-35.
  9. Villareal DT, Aguirre L, Gurney AB, et al. Aerobic or resistance exercise, or both, in dieting obese older adults. N Engl J Med 2017;376:1943-55.
  10. Muscariello E, Nasti G, Siervo M, et al. Dietary protein intake in sarcopenic obese older women. Clin Interv Aging 2016;11:133-40.