一般社団法人 日本肝臓学会

グラフト選択(外側区域、右葉グラフト、左葉グラフト、その他)

グラフト選択はドナーの安全性を確保するために、ドナー術後回復に十分な残肝容積を確保するよう行われます。残肝容積、グラフト肝容積は造影CT検査画像をもとに推定されます。近年では自動解析ソフトにより、門脈による血流支配領域と、肝切除にともなう肝静脈切離による肝うっ血の影響とをシミュレーションし、グラフト摘出後の残肝容積率がドナー全肝容積に対して30-35%以上あることが多くの移植施設で条件とされています。特に残肝容積率が30-35%となる場合についてはさらに慎重に検討されます。その上でレシピエントが必要とする肝容積が確保されるようにグラフトが選択されます。胆道系の解剖についてMRIあるいはDIC-CTを用いて検討されます。

  • レシピエントが必要とする肝容積については、標準肝容積(SLV: standard liver volume)推定式や肝臓グラフト重量対レシピエント体重比(GRWR: graft recipient weight)を用いる場合があり、施設により手法が異なります。

通常、生体肝グラフトとして以下のものが選択されます。

肝外側区域グラフト
門脈臍部右側にて肝切除を行います。門脈臍部をグラフトにつけ切除するため、ドナー内側区域は虚血となり萎縮します。主に小児(乳児・幼児)レシピエントに適応されます。体格が大きい小児のレシピエント手術には、外側区域に内側区域の一部をつける拡大外側区域グラフトが用いられることもあります。
尾状葉付き/なし左葉グラフト
体格の大きい小児や成人症例に用いられます。基本的には中肝静脈右側で肝離断を行います。右葉グラフトに比べて肝容積が小さく(全肝の30-40%、レシピエント標準肝容積の30-50%)、術後に過小グラフト症候群を発症する場合があります。
右葉グラフト(中肝静脈付き、中肝静脈なし)
体格差の大きい成人レシピエントや、肝移植術前状態のより悪化した成人レシピエント症例に選択されます。諸外国では、成人症例ではほとんどの場合、右葉グラフトが用いられます。ドナー全肝容積の約2/3を切除するため、ドナー残肝容積30-35%を確保する必要があります。一方レシピエントにおいてはより大きいグラフトを移植できることとなり、術後回復が左葉系グラフトに比較して早いとされています。レシピエント手術手技的な面では、中肝静脈はレシピエント血管(自己肝門脈、内頚静脈など)を用いて再建するため、左葉グラフトに比べてやや複雑になります。
後区域グラフト
右葉系グラフトの場合ドナー残肝不足、左葉系グラフトの場合容積不足の時、脈管・胆管解剖の破格などで定型的なグラフトが選択できない時に検討されます。門脈・動脈、胆管解剖が複雑になり、実際の施行数は多くありません。
その他特殊なグラフト
モノセグメントグラフト(新生児・低体重レシピエント(<5kg)に選択される)や、2人のドナーから肝臓の提供を受けるデュアルグラフトがあります。

日本肝移植学会症例登録報告(2021年)によれば、本邦生体肝移植術(n=9760)のグラフト割合は外側区域25%、左葉グラフト(尾状葉付き/なし)36%、右葉グラフト36%、後区域グラフト1.5%でした。