一般社団法人 日本肝臓学会

基準

脳死肝移植における臓器提供は第三者の善意による提供であり、本邦では脳死下臓器提供数が少ないため、脳死肝移植には厳格な適応基準が設けられています。同基準では、緊急に肝移植が必要となる急性肝不全や代謝異常症などのⅠ群、並びに慢性疾患の進行による肝不全や肝細胞癌などのⅡ群に分けて選択基準が規定されています。日本肝臓学会肝移植委員会において作成・改訂された脳死肝移植適応基準を表6に示します。また、脳死肝移植希望者の各疾患における「選択基準」は、厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会において審議・承認されています。「選択基準」は定期的に改訂されていますので、最新の内容はリンクを御参照ください(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/zouki_ishoku/hourei.html)。

一方、生体肝移植適応基準は、「肝移植治療がその必要性、安全性、及び効果において他の治療よりも優位であると判断される場合」とされています(日本移植学会ガイドライン)。各移植実施施設において、個々の症例、生体ドナー候補者の状況等に基づき総合的に評価し、慎重に適応が判断されます。そのため、脳死肝移植の厳格な適応基準を満たすまで待機してから紹介するのではなく、早めに各移植施設にお問い合わせください。

肝移植の年齢適応は、脳死肝移植の登録は65歳までとなります。生体肝移植の場合は施設ごとに異なりますので、個々の症例については各移植施設にお問い合わせください。

A.Ⅰ群(緊急に肝移植が必要となる急性肝不全や代謝異常症など)

緊急に肝移植を施行しないと短期間に死亡が予測される病態や疾患群を対象しています。

  1. 急性肝不全昏睡型、遅発性肝不全(LOHF)
    • 昏睡Ⅱ度以上を認める症例
    • 肝移植適応ガイドラインのスコアリングシステムで4点以上
    • 登録後、7日ごとに、48時間以内のデータを用い登録を更新
  2. 尿素サイクル異常症(シトリン欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、カルバミルリン酸合成酵素Ⅰ欠損症など)、有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、メープルシロップ尿症など)
    • 脳症が制御できない症例

Ⅰ群に関しては速やかに移植実施施設に連絡をとり、適応評価を進める必要があります。脳死肝移植の場合は、待機リストに登録された場合最も優先されます。急性肝不全昏睡型の予後予測モデルとして、急性肝不全スコアリング(表2)を使用します。

表2.劇症肝炎の肝移植適応ガイドライン:スコアリングシステム(厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:2009年)
スコアリングシステム
<スコア合計点と予測死亡率>
0点:ほぼ0%、1点:約10%、2〜3点:20%〜30%、4点:約50%、5点:約70%、6点以上:90%以上

B.Ⅱ群(慢性疾患の進行による肝不全や肝細胞癌など)

Ⅱ群に属する慢性疾患の場合、移植後の生存率が保存的治療にて見込まれる予後を上回る時期がひとつの目安となります。臨床的には難治性腹水、特発性細菌性腹膜炎、静脈瘤からの出血、肝性脳症といった臨床所見を認め、内科的治療が困難な場合です。

脳死肝移植に関しては、腹水、肝性脳症、アルブミン、ビリルビン、プロトロンビン時間の5項目で算出できるChild-Pughスコア(表3)で、10点以上が待機リスト登録基準となります。この際、腹水徴候は腹部CT所見で判断します。なお、利尿剤の効果で腹水が消失している場合は、CT所見で腹水が認められなくてもスコア2点とします。Ⅰ群以外の全ての症例はMELDスコア(表4)の高い順に優先順位を設定します。このMELDスコアは定期的、あるいは病態が変化した際に日本臓器移植ネットワーク(JOT)に報告します。JOTでは、この報告をもって優先順位を随時設定し直します。

生体肝移植に関しては、臨床的に非代償性肝硬変と判断される場合であればChild-Pughスコア10点を満たさない場合においても適応と判断することがあり、最終的な適応時期判断は移植実施施設に委ねられています。

小児疾患の場合は、MELDスコア16点相当でJOTに登録されます。また、門脈圧亢進症の所見の他に、成長障害が生じてきた場合も肝移植の適応となります。先天性代謝異常症では表5の肝移植適応スコアリングシステムが本邦で参考にされています。(厚生労働省難治性疾患克服研究事業「有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症・プロピオン酸血症)、尿素サイクル異常症(CPS I、OTC欠損症)、肝型糖原病の新規治療法の確立と標準化に関する研究」班(代表堀川玲子)「代謝性疾患生体肝移植の手引き‐適応基準」)

表3.Child-Pughスコア

判定基準 1点 2点 3点
アルブミン(g/dL) >3.5 2.8-3.5 <2.8
ビリルビン(mg/dL) <2.0 2.0-3.0 >3.0
腹水 なし 軽度
コントロール可能
中等度
コントロール困難
肝性脳症(度) なし 1〜2 3〜4
プロトロンビンPT(%) >70% 40%-70% <40%
表4.MELDスコア
MELDスコア

https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/medicalinfo/hepatic_reserve.html

表5.肝移植適応スコアリングシステム
肝移植適応スコアリング

表6.脳死肝移植登録基準(2020年9月9日開催、日本肝臓学会肝移植委員会における適応・選択基準v3より一部改変)